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デカセギ派遣会社の見た日本の不況 

 在日日系就労者(デカセギ)の実態は大変です。その実情を派遣会社サイドと受け入れの二面から見た記事を紹介します。

 世界経済危機の影響を受けて、「派遣切り」「大量解雇」など、日本から暗いニュースが入ってこない日はない。多くの派遣社員を抱え業界の実情を知る平良栄次郎社長(拓栄、神奈川県)と派遣先の牧信夫社長(菜デリカ、佐賀県)に業界や不況下でのデカセギ事情を聞いた。
 「電話が鳴りっぱなし。対応しきれない」1000人近くの契約社員を、弁当・惣菜製造の3社に派遣している拓栄には、昨年の11月以降、毎日数え切れないほどの求職問い合わせがある。「7台の電話と社員20人で応対しているが、とてもじゃないけど対応できない。順番待ちリストに加えるため、連絡先を聞くことで精一杯」(平良社長)という状況だ。
 派遣先の3社では、これまでに雇用調整はない。機械化されておらず、人が中心の労働集約的な食品業界は、利益が少ない代わりに安定している。「不況の煽りを受ける最後の業界」と言われている所以だ。
 一方、「トヨタショック」に始まり、重工業部門は軒並みガタ落ち。数は把握できないが、かなりの失業者が出ているのは周知の通り。これらの人たちが、職探しに躍起になっている。派遣先も直接問い合わせを受ける。しかし、派遣会社からの間接雇用を維持するというところは多い。「派遣会社とのビジネス関係もありますから。これはうちに限らず、どこでもそうじゃないでしょうか」(牧社長)
 実際、両社ともに従業員の需要があるわけでもない。自動車製造工場などに比べて、食品工場は時間給も低い。そんな業界で、10年、20年と勤続してきた人を優遇したい、というのも本音のようだ。日本国内は失業者が溢れ、ブラジルに帰国する人も多い。「実際、(失業者の)6〜7割りは帰国してるんじゃないですか」(平良社長)
 しかし、帰国できるのは、貯蓄など経済的な余裕がある人たちだ。帰りたくとも帰れない人、永住を決意している人。いずれにせよ、日本に留まる意向の失職者たちは、派遣会社はもちろんのこと、勤務先企業や行政に対して抗議運動を起こしている。平良社長はこの情勢を冷静に見つめる。派遣元に訴えるだけでは、これまで通りの「トカゲの尻尾切り」になるというのだ。「社会問題化したことがよかった」と平良社長は言う。
 企業組合は、派遣社員の擁護については消極的だ。解雇された側としては、それも不満の種だ。「昨日まで一緒に仕事してきたのに、という心情もあるんじゃないでしょうか」(牧社長) これらがデモ行進などにつながった。デカセギ者の厳しい雇用情勢は今後もまだまだ続く、というのが二人の見解。「ただ、誰の責任問題というわけではなく、全てが急激に変化したため対応しきれないのが現状」と平良社長が付け加える。
 日本就労ブラジル人たちは、急激な社会変化に翻弄されながらも、自ら行動を起こして、なんとか突破口を見つけるしかないようだ。(サンパウロ新聞)