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W杯会場前外壁に和風の龍

 サンパウロ市がサッカー・ワールドカップ(W杯)開幕に向けて、地下鉄イタケーラ・コリンチャンス駅の線路沿いの外壁を「サッカーにちなんだ落書きアート」で装飾する「クアトロキロメーター・グラフィッチ」というプロジェクトを実施。応募した中川敦夫氏(36、京都)が、グラフィテイロ(壁に画を描くアーティスト)の一人に選ばれました。
 同プロジェクトは、W杯開幕戦が行われるイタケロン・スタジアムの建設と並行し、殺風景な同スタジアム周辺を壁画で盛り立てようと企画されたものです。選ばれたグラフィテイロは70人で、1人が50メートルを担当、4キロの線路沿いの壁にスプレーを使って画を描きます。制作期間は5月5日〜25日の20日間。中川氏は7日間で仕上げました。
 中川氏が同プロジェクトで描いた壁画は巨大な龍がモチーフ。ベースの色には赤、白、黒を用いた荘厳な作品に仕上がっています。テーマは「W杯の華やかさと影、それ にまつわる人々の感情」といいます。発想の原点は、W杯に対するイメージの転換にありました。同氏は日本にいたころは、W杯は4年に一度のお祭りという意識でしたが、ブラジルに住んでみて「W杯に苦しめられている人」の存在を知ったと話します。
 中川氏は「デモの主張もそうですけど、政治の腐敗や税金の使い道の問題、あるいはイタケーラの住民がスタジアム建設の煽(あお)りを受けて追い出されたり。W杯はただ楽しいだけのイベントじゃないと分かったんです」。同氏がこだわったもう一つのテーマは「日本」。「ブラジルに来て、余計に日本人を意識して制作活動をするようになった」そうです。「故郷京都のお寺の壁画からインスピレーションを受けたりもしています。人それぞれ見方があるけれど、『日本っぽい』と通りがかりの人に言われるとうれしいですね」。
 今回の壁画は、遠く離れて住んでいる日本の両親へのプレゼントでもあります。「普段親孝行をしていないし、僕に何ができるのかを考えていたところに応募のチャンスがあったんです」。W杯への歓喜や悲哀、日本や両親を想う温かさにあふれた作品です。
 中川氏が最初にブラジルへ来たのは8年前。日系人グラフィテイロのチチ・フリーク氏の紹介で、「ショッキ・クルトゥーラ」というギャラリーで展覧会を行いました。それ以来ブラジルに引かれ、3年前から本格的に活動の場をブラジルに移しています。
 2年間は同ギャラリーの所属アーティストとして仕事し、現在はフリーに転身。主に絵の具と筆、あるいはペンを使った作品を制作し、家や店の内装として壁に画を描く仕事もしています。同プロジェクトのような、外壁をキャンバスにスプレーを使って画を描く体験は初めての体験だったそうです。「グラフィテイロは前から面白い世界だなとは思っていました。スプレーの使い方は書きながら覚えました」と話してくれました。
 写真=仕上がった作品(サンパウロ新聞)